処女の葬式

9.11は私のなかで、処女の葬式をした日だ。

高校二年生の今日、わたしの友達は初めて彼氏とセックスをして、処女を喪失した。

彼女にとって処女というものが、時限爆弾のようなもので高校卒業までに捨てないとアイデンティティが崩壊する勢いだったので、私は妙に安心した。

もう彼女は爆発しない。

安心したはずの彼女が、なぜかあまり嬉しそうではなくて、今考えると、そんなに好きでもない男に処女をささげたことに対するいらだちとか色々あったんだろうけど、高校二年生のわたしたちには、はっきりとした言葉が見当たらなくて、イトーヨーカドーのフードコートで炭酸がぬけたコーラを飲んでいた。

フードコートはすぐ横が店舗で、わたしの視界に線香が見えた。

 

「……処女喪失したし、処女の葬式でもする?」とわたしは言った。

「意味わかんないけど、線香あげとこか。どこで?」彼女はのった。

「あんたがセックスしたラブホの駐車場は?」

「危ない人なんだけど、それ」

「んーー。じゃあ、弓道場は? 今日は誰もいないよ」

「いいね」

 

弓道部員だったわたしたちは、線香を買って、弓道場の土間で焚いた。あの独自の香りと煙が生き物みたいに踊って、わたしも彼女もそれを静かにみていた。

「めっちゃ葬式のかおり」彼女がいうので

「そりゃ線香だからな」とわたしは笑った。